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 結婚式の日は、晴天だった。
 青空に、いろとりどりの風船が舞い上がっていく。
 こどもたちが歓声を上げた。

 

「綺麗だなぁ、花嫁さん」

 

 騎士団の天使メルヴィン・ロットが、瞳をキラキラさせながらいった。

 

「そうだね、綺麗だね……うっうっうっ」
「な、なんで泣いてるの、ビビ?」

 

 滂沱の涙を流すあたしを見て、メルヴィンはぎょっとしたようだ。

 

 だってしかたないじゃん。
 今日は結婚式。
 愛するヴェルマー様とロゼッタの、結婚式なんだから。

 

「ヴェルマー様……騎士の正装のお姿、死ぬほどかっこいいですヴェルマー様……」
「ビビ様、手持ちのハンカチがおいつきません」

 

 ビアンカが冷たい声でいう。
 ちなみにシャニは、花嫁ロゼッタの介添え人をしている。

 

 もうこうなったら、騎士団幹部たちの正装姿を見て萌えまくるしかない。
 同じ正装なのに個性が全然ちがう。メルヴィンは可愛すぎ大天使だし、チェスターは最近一本芯が通ってきたし、ヴェルマー様は超美麗眼鏡だし、ルカ様はキラキラ王子様スタイルだし、そして残りのエリオは。

 

「きゃあ、エリオ・ロット様よ」
「最近さらにカッコよくなったよね」

 

 ……見物人の女子たちにきゃーきゃーいわれていた。

 

 最近さらにカッコよくなった、っていう意見はいまいちわからないけど、エリオがイケメンであることにまちがいはない。

 

「兄さん、遅かったね。もう始まっちゃってるよ」
「仕事がたてこんでたんだ。婚儀の宣誓はまだだろう?」

 

 エリオはあたしの隣の椅子を引いた。
 目があうと、極上の笑顔を見せる。

 

「そのドレス、可愛いね。とてもよく似合ってるよ」
「……それはどーも」

 

 つい顔を赤くしてしまう。
 エリオと一緒にいるってことは、こういうのに慣れてかなきゃいけない。
 でもいつまでたっても慣れない。

 

 メルヴィンは首をかしげた。

 

「仕事なんて残ってたっけ?」
「ルークに今日あの二人が結婚することを伝えにいったんだ」

 

 あたしはメルヴィンは、同時に黙りこんだ。
 ルークの話題は、騎士団の中で禁句になっている。

 

 彼の名前を出したところで、なにを論じればいいのか、わからないから。
 感情を、整理しきれていないのだ。

 

「お祝いの言葉を、送っていたよ」

 

 エリオはさらりといった。

 

「そして謝罪を。前聖女と彼の父に対する謝罪はまだできないみたいだけど、ロゼッタとビビに対しては、心から謝っていた」

 

 あたしはテーブルの下で掌を握りしめた。

 

「あたしも……今度、あたしも、ルークに会いに」
「まだいまは早い」

 

 あたしは言葉を吞みこむ。

 

「でももうしばらくしたら、会いに連れていくよ。必ず」

 

 エリオは優しく微笑した。
 涙が零れそうになるのを、顔をうつむけることで、こらえた。

 

 今日はちがう。
 今日は、ルークに涙を流す日じゃない。

 

「それでは、近いのキスを」

 

 神父が厳かに告げた。
 あたしは顔をあげる。

 

 ゆっくりと、ロゼッタのベールをヴェルマー様が持ち上げた。
 幸せそうな薔薇色の頬。ロゼッタは今日、世界中で一番綺麗な花嫁になった。

 

 ふたりの顔が近づいて、永遠を誓うキスを交わす。
 その、あまりにも幸せな光景に、自然と涙がこぼれた。

 

 よかったね、ロゼッタ。ヴェルマー様。
 お幸せに。

 

 白いハトたちが放たれた。
 青空はどこまでも澄んで、美しかった。

 

 

 

 

「それで、ビビ。オレたちの婚儀はいつにする?」

 

 夜。
 あたしを腕の中に閉じこめながら、エリオがいった。

 

 可哀想なビアンカは、またしても締め出しをくらっている。

 

「ちょっと待って。いつ結婚するって話になった?」
「そんなの、オレたちが出会った時から決まってたじゃないか」
「発言がストーカーじみてるんですけど」
「好きだよ、ビビ」

 

 首の後ろをなでられて、思わず顔をあげた。直後、唇にキスがからむ。

 

「愛してる」

 

 キスの合間に、囁きが零れ落ちていく。
 あたしも、とこたえたいのに、キスを受けとめるだけで精いっぱいになってしまう。

 

「ずっとこうしていたい」

 

 首すじに唇を落としながら、エリオがいった。
 ぴくんと体が跳ねる。

 

「や、やだ、エリオっ……」
「ビビ」

 

 再び深く口付けられた。
 体中が熱い。

 

 気づいたら、ゲームの世界にいた。
 必死で突っ走って、気がついたら、この腕の中にいた。

 

「あたしも、大好きだよ。エリオ」

 

 そしてこれからもずっと、この腕の中にいるのだろう。
 あたしは両腕を伸ばして、エリオの体を抱きしめた。

 

 

fin.

 

 

 

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