ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(2)

act1 シア(1) ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(3)

 

 再び、シアの目前で、『結界』が炎を噴き上げた。間一髪、後ろに飛びのき事なきを得る。しかし、状況は絶望的だ。
 どこに逃げても、行き詰まる。シアを囲む結界は、徐々に狭まっているのだ。キールはもうすぐそこまで来ているだろう。
 それでもあきらめず、きびすを返したシアの目の前に、暗い影が現れた。

 

「――見つけた」

 

 キール・ダイスの笑みが歪む。無造作に伸ばした茶色い髪と、浅黒い肌。まだ幼さの残る相貌の中、彼の両目は異常なギラつきを見せていた。
 正気じゃない。
 直感で、シアはそう悟る。話の通じる相手じゃない。

 

「見つけたぞ、シア。無駄な抵抗はやめて、、早く『あれ』をよこせ」

 

 シアの一歩手前で、火柱が立上った。キールの魔法だ。ジリリ、と髪の毛が焼けて、頬が熱風に煽られた。
 身がすくむ。――シアは何もできない。
 結界で身を護る能力も、自在に剣を操る技も、持っていない。
 血走った双眸で、キールが告げた。魔法能力を持つ者の傲慢さが、垣間見えた。

 

「次は顔だ。嫌ならあれを――写真を渡すんだ」
「……ゆるさない」

 

 シアは怒りに震えた。唇を噛みしめる。
 ――これ以上、何を。
 あたしから、奪うのか!

 

「絶対にゆるさない、キール!」
「黙れ、シア!」

 

 キールが絶叫して、腕を振り上げる。キールの怒りに触発されたかのように、空気中の粒子が炎に弾けた。
 炎の直撃を覚悟して、シアはとっさに目を閉じる。だが聞こえてきたのは、意外にもキールのうめき声だった。
 続いて、場違いなほどに涼しげな声が投げ込まれる。

 

「こんな夜中に騒いでたら近所迷惑だよ、少年」

 

 シアは後ろを振り返った。長く黒い外套をまとった一人の青年が歩いてくる。見知らぬ顔だ。銀色の髪が、月光に映えていた。
 背後には、キールの結界が張られていた。誰も通れないはずだ。 
 この青年が、結界を破ったのか。

 

「なんだおまえは。邪魔する気か!」
「まさか」

 

 月明かりの下で、彼は肩をすくめた。薄紫の双眸が細められる。

 

「オレはただ、強引なナンパに困ってる女の子を助けに来ただけだよ」
「……結界を壊したな。『リリス(魔法能力者)』か」

 

 キールの表情が険しくなる。彼は、シアを通り過ぎてキールの3歩手前で、止まった。

 

「素晴らしい名探偵っぷりだね。今後の参考にさせてもらおうかな」
「ふざけるな!」

 

 キールから放たれた炎は、青年の目前で弾けて消えた。彼はすでに、キールとの距離を詰めている。
 右手には『先ほどまでなかったはず』の白銀の剣があった。そして――

 

「さあどうする、ナンパ師くん?」

 

 キールは『背後から』彼に剣を、突きつけられていた。

 

 

 

 

act1 シア(1) ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(3)

 

 

 このページにしおりを挟む
 トップページへ戻る