ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(4)

act1 シア(3) ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(5)

 

「名前はシア、性別女。歳は15前後。青い目をした子だよ。分かってるのは、それくらいかな」

 

 シアをベッドに寝かせて、アレスが言った。エステルは遠くの物陰に隠れて後方支援にいそしんでいたので、シアの姿をしっかりと見ていないのだ。結界を壊したり、逆にアレスの周りに張ったり――何かと忙しかったのである。
 エステルは溜息をつく。

 

「こんな時間に女の子一人で裏道をうろついてるなんて、おかしいよ。追っかけてた男も、かなりキてる感じだったし。裏組織の子なんじゃないか」
「多分ね」

 

 エステルは眉をひそめた。世界一の繁栄を誇るといわれている王都も、しょせんはこんなものだ。年端もいかない少女が、悪の組織に手を染める。
 そこまで考えて、エステルは自嘲した。結局のところ自分も、似たようなものだ。もし隣にアレスがいなかったらと思うと、ゾっとする。

 

「所属は、カイの組織? それともレイハルトかな。若い子使ってるなら、この二つが一番に思い浮かぶけど」
「オレはどっちも違うと思うよ」
「どこにも属してないただのチンピラ系ってこと?」
「そういう感じもしない。そうだなぁ……身内か親しい人が、組織の人間かもしれないな。完全に裏を見ていない気がする」

 

 アレスの人間観察眼と推理力は高性能だ。たいてい当たる。理由は? と促すと、アレスは肩をすくめた。

 

「目が綺麗だった。それだけだよ」

 

 エステルは、眠るシアに目を落とした。目が落ちくぼみ、眉は苦悶をあらわすように寄せられている。薄汚れた肌、もつれた髪、擦り切れた服。憔悴の深さから、彼女の身に最悪の事態が起きていることは容易にうかがえる。
シアの睫毛がわずかに震えた。ゆっくりと開かれた目は、アレスの言う通り、綺麗な青色だった。澄んだ青。まるで空のような――

 

「おはよう、シア。」

 

 アレスが嬉しそうに覗き込む。相手が若い女の子だろうと、ガラの悪いチンピラだろうと、アレスはいつも馴れ馴れしい。
 シアはぼうっとしてたが、すぐに勢い良く起きあがった。

 

「ここはどこ? キールは?!」
「まあまあ落ちついて」

 

 アレスはなだめようとするが、逆効果だったようだ。シアは逆立った猫のように、エステルたちを睨みつける。

 

「まさか、あんたたちもこれを狙ってるの?」
「『これ』って……ああ、あの少年がヨコセヨコセ言ってた物? 残念ながら、全く心当たりがないなぁ」
「ほんとに? 嘘言ってない?」

 

 シアは半信半疑といった目つきで、アレスを見上げている。
 なるほど、アレスの言っていたことが分かった。確かにこの少女は、子供だ。もしアレスが嘘をついていたとして、その相手に「嘘言ってない?」と聞くなんて、無駄もいいとこである。
 嘘つきが「嘘をついてる」なんて、白状するはずがない。そして残念ながら、エステルの知る限り、アレスは嘘つきだ。
 アレスはニコニコ笑っている。

 

「ほんとだよー。嘘なんて言ってないよ」
「まあ、今の限りでは、本当に嘘は言ってないな」

 

 エステルが口を挟んだ。シアの目がこちらに向けられる。同性ということもあってか、若干シアの警戒心が薄らいだようだ。

 

「わたしたちはたまたま、あの裏道を通りかかったんだ。君が襲われてたから助けただけ、気を失ったから介抱しただけ。あの少年とは全く無関係だから、安心していいよ」
「……ほんとに?」

 

 シアの警戒が和らいだのを見て取り、アレスが割り込んだ。

 

「もちろん。オレたちは知る人ぞ知る、正義の腕利き探偵なんだ。お嬢さんみたいな可愛い子の依頼なら格安で引き受けるよ。――どうだい?」

 

 

 

 

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