ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(5)

act1 シア(4) ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(6)

 

 深夜から、明け方に差し掛かろうとしている。
 探偵? とシアはいぶかしげに眉をひそめた。

 

「それって、何でも悩み事を解決してくれたりする、アレのこと?」
「果てしなくライトに言えば、そんな感じのアレだねぇ」

 

 シアはそこで、押し黙った。何かを考え込むように、自分の両手を見ている。手は、固く握りしめられていた。そして――

 

「依頼、したいの。聞いてもらえる?」

 

 決然とした両目を上げて、シアは言う。エステルは小さな胸の痛みを感じた。14、5歳の少女がする目ではない……。
 アレスはにっこりと、いつもと同じに笑う。

 

「もちろん。あ、でも殺しだけはダメだよ。それは受け付けてないんだ。何しろ妹のエステルがとっても繊細でね。叫び声を聞くだけでもひと苦労、血なんか見ちゃった日には三日三晩うなされるハメに」
「シア、こいつの話は聞かなくていいから、とりあえず依頼内容を聞かせてくれ」
「殺してくれないの?」

 

 シアの言葉に、エステルが面食らった。アレスの笑顔は、やはり変わらない。

 

「ごめんね、シア。でもそれ以外なら何でも聞くよ。あの少年に、二度と君の前に姿を現さないと誓わせることもできるしね」

 

 アレスは予想していたのかもしれない。エステルはもう何も言えなかった。

 

「じゃあ、それでいい。もう二度とキールの顔は見たくないもの。でも、理由や事情は話せない。非協力的なようで申し訳ないけれど……それでも、依頼できるの?」
「どう、できる?」

 

 アレスがいきなりこっちに振ってきて、エステルは戸惑った。シアの「殺してくれないの?」発言に固まってしまったことを、アレスに見抜かれている。
 エステルは意地で平常心を引きもどした。自分は探偵なんだから、きちんとしなければ。アレスのお荷物なんて、死んでもごめんだ。

 

「せめて最低限の事情は教えてほしい。聞きたいことは色々あるけど、最重要なのは、『キールが何を狙っているのか』。これが分からないことには、作戦を立てようがないんだ。脅しで『今後一切シアに近づくな』ってことは言えるよ。でも、脅しっていうのは、時間が経てば経つほど効果が薄れていくんだ。のど元過ぎれば熱さを忘れるからね。長期的に見て、賢いやり方とは言えない。だから、キールがシアに近づく理由を根本から断つ必要がある」
「分かった。でもそれなら、そっちのことも多少は教えてほしい。ええと……まずは名前から」
「あっ、ごめん。名前まだだっけ」

 

 エステルは慌てて頭を下げた。

 

「わたしはエステル。こっちは相方のアレス。歳は19で、この仕事は5年前からやってるんだ」
「迷子の猫探しから、犯罪者確保まで、何でもオーケー。依頼人は近所のおばあちゃんから、王都治安官までバラエティに富んでるよ」
「二人は兄妹なの? 見た目そっくりだけど。同じ人間の、男バージョンと女バージョンみたい」
「ああ、うん。アレスはわたしの双子の兄なんだ」

 

 シアは珍しいものを見るかのように、交互に見比べている。この手の視線は慣れているけれど、やはりちょっと恥ずかしい。
 確かに外見は似ているかもしれない。でもアレスは『アーク』(剣能力者)にふさわしい、しなやかな筋力の持ち主だ。顔立ちは確かに甘さが含まれているかもしれないが、長身なので、間違っても女に見られることはない。
 対してエステルといえば、身長は女性平均。体つきは、多少19歳の女らしく丸みを帯びているが、どちらかというと痩せ型だ。こちらも男性に間違えられることはない。
 あえて似ているとすれば……色白の肌と、目、髪の色だろう。
 そして性格は、何一つ似ていない。

 

「じゃあ、今度はこっちね」

 

 シアは自分を指さして言った。その仕草が子供っぽい。きっと根は明るい子なのだろう。

 

「あたしはシア。15歳。ずっと孤児で、救貧院で育ったんだけど、14歳の時にそこを出て、自分たちで生活をし始めた。3歳年上のクレイと一緒に暮らしてた。これが、クレイの写真だよ。救貧院に『能力者』が来た時に、記録してくれたんだ」

 

 シアは1枚の色褪せた写真を取り出した。『フィオナ』(感能力者)の念写によるものだろう。優しげな面立ちの少年と、利発そうな幼い少女が楽しそうに笑っている。どこかの野原で撮ったものなのだろうか、空は青く、光を浴びた草原が目に優しい。
 写真を受け取ったエステルはわずかに眉をひそめた。何だろう。この写真に、わずかな違和感を感じる。

 

 

 

 

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