ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(6)

act1 シア(5) ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(7)

 

「最初の数か月は、二人で仕事を探して、頑張って生活してたんだけど、それだけじゃ食べていけなくなったの。この国は孤児に厳しいから……。だからクレイは仕方なく、裏の組織に入れてもらって、お金を稼ぐようになったんだ。それに、あたしができるだけ組織と関わらないようにしてくれてた。だからクレイの詳しい仕事内容は知らない。麻薬を扱ってる、とだけ聞いたかな。でも、毎日が平穏で、それなりに幸せだったの」

 

 『孤児に厳しい国』――それはエステルもよく知っている。身に覚えのある話だ。
 ここレイフォリス王国は西の国トルエニアより身分制はゆるいが、やはり厳しい階級社会には代わりない。シアなどの孤児は、守ってくれる親がいないため、その最下層に位置する。境遇は、熾烈を極める。
 だからシアやクレイという少年が、裏の社会に足を踏み入れてしまう事情も、分かりすぎるほど分かる。

 

「キールはクレイの仕事仲間だった。後輩で、クレイは可愛がってたの。キールもなついてて……。クレイは仕事仲間を家に連れてくることなんて一度もしなかったのに、キールだけは連れてくることがあったの。みんなでごはんを食べたりもしだんだ。キールは、大人しくて気が小さくて、いつもクレイを頼りにしてた。あたしとも、まあまあ仲良くしてたの。……してた、はずだった。でも昨日、突然、キールはコレを渡せって怒鳴り込んできたの。この、写真」

 

 シアはエステルの手元を指さした。幼いクレイとシアが写った写真。

 

「どうしてこの写真が欲しいのか、あたしには分からないの。でもいつも大人しかったキールが、あんな風に怒鳴り込んでくるなんて、この写真には何か秘密があるのかもしれない。ほらここ。裏面に『A-13地区、ダナの木の下』って書いてあるでしょ。これを知りたかったって事はある?」
「うーん、この文字はダミーっぽいな。あ、そうか。カラクリだ。魔法が編まれてる」

 

 先ほどの違和感が分かった。エステルは写真の裏側にてのひらをかざして、神経を集中する。ほのかに裏面が光を帯びた。
 アレスが身を乗り出す。

 

「どんな魔法?」
「暗号。組織の文字で書かれてるから、わたしには解読できないよ」
「心当たりある?」

 

 アレスの言葉に、シアは首を振った。

 

「ううん、わたしは『非能力者』だから暗号には気づかなかった。キールは『リリス』だから分かってたのかもしれないけど」
「クレイは麻薬を扱ってるって言ってたらしいね。じゃあ麻薬の隠し場所、もしくはが受け渡し場所が妥当だなぁ。ところでシア、もう一つ重要なことを確認しておきたいんだけど、いい?」

 

 エステルはドキリとした。アレスが何を確認したいのか、分かったからだ。
 そして、エステルの予想が正しければ、その質問はシアにとって最も残酷なものになるだろう。
 何も知らないシアは、うなずいた。

 

「うん、いいよ。何?」
「クレイは今、どうしてるの?」

 

 沈黙が落ちた。
 シアの表情は変わらない。けれど、深淵を覗くような、昏(くら)い沈黙だった。
 数秒が過ぎて、アレスはあっさり切り上げた。

 

「まあ、いいや。今日は疲れてるだろうし、ゆっくり休もう。それじゃあまた、明日」

 

 

 

 

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