ネット小説 【銀の翼】 act1 シア(7)

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「それで、結論は?」

 

 リビングのソファにドサリと座り込んで、アレスは聞く。エステルが冷え切った暖炉に目を向けると、薪に橙色の火がついた。魔法である。
 シアはエステルの寝室にいる。疲れ切っているようで、泥のように眠り込んでいた。
 苦し紛れに、エステルは言った。

 

「……まだ分からないだろ」
「分かるさ。『クレイは死んでる』。殺したのはキールだろうね。もっかい写真見せて」

 

 エステルは苦い気持ちで写真を渡した。……アレスの予想はきっと当っている。
 先ほどのシアの反応は、きっと、クレイが死んでいることを知っているからこそのものだろう。

 

「幸せそうな写真だなぁ。裏社会で働いている間も、こんな感じで暮らしてたんだろうな。やったのはキールかな。残酷なことをするねぇ」

 

 アレスは意味ありげに笑う。

 

「ねえ、エステル。もしオレが、クレイみたいに突然誰かに殺されたらどうする?」
「な――、何言ってるんだよ。そんなことあるわけないだろ。アレスは強いんだし」

 

 アレスほど強い『アーク』(剣能力者)を、エステルは見たことがない。アレスは負けない。それはエステルの中で、絶対的な真理になっている。
 けれど、もし、アレスの言うように、突然誰かに、消されてしまったら。エステルは、冷水が背筋を伝うような感覚に、震えた。
 アレスはしばらく黙っていたが、やがていつもの笑みに戻った。

 

「冗談冗談。エステルの言う通り、オレはだれよりも強いから、絶対に死なないよ」
「……ほんとアレスはいつも、面白くない冗談ばっかりだ」

 

 エステルは目線をそらした。それでも、エステルの心は冷され続けている。
 こういう時エステルはいつも、情けない思いでいっぱいになる。自分がどれだけ、アレスに依存しているかということを思い知るのだ。
 定期的にアレスは、表現は違えどもエステルの心を試すことを言う。その真意がどこにあるのか、エステルには分からない。

 

(――安心してる?)

 

 エステルの依存心を確認するたびに、もしかしたらアレスは安堵しているのではないだろうか。
 もしそうだとしたら、自分たちはどこか、ゆがんでいる。

 

「エステル」

 

 アレスの声が、いつもと違って深い。
 エステルは彼の目を見ないまま、答えた。

 

「何? 明日は早いんだから、もう寝ないと」
「抱きしめてもいい?」

 

 エステルの呼吸が、止まった。
 気づいたら、たくましい腕に抱きすくめられていた。かぎ慣れた匂いと力強さに、眩暈すらする。
 アレスの体温が高い。エステルは奥歯を噛みしめて、腕の中で彼の胸を押し返した。

 

「離してよ。おかしいよ、こんなの。兄妹なのに――」
「関係ないね」

 

 あっさりと切り捨てて、アレスの指がエステルのあごをつかんだ。
 そのまま唇を押し当てられそうになり――エステルは無理やり顔をそらす。

 

「嫌だ。わたしはそういうのじゃない。違うんだ……」

 

 言いながら、涙が滲みそうになるのをこらえた。やがてアレスの腕がゆるみ、解放される。エステルの全身から力が抜けて、ソファにへたりこんだ。

 

「『そういうの』って、何?」

 

 冷静な声が降ってきて、エステルは顔を上げる。予想以上に冷たい薄紫の双眸が、そこにあった。

 

「まるで子供だね。いつまでも逃げられるとばかり思ってちゃダメだよ」

 

 薄く笑んで、アレスは自室に消えていった。一人残されたリビングで、エステルは長い間、金縛りを受けたように動けないでいた。

 

 

 

 

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