ネット小説 【銀の翼】 act2 キール(1)

act1 シア(7) ネット小説 【銀の翼】 act2 キール(2)

 

 レイリスの森、という。
 シアは木々の間をひとりで歩いていた。王都ウィニクスのはずれにある小さな、けれど深い森だ。生い茂る葉が光をさえぎり、地面は鈍く湿っている。一歩一歩進む靴が、くっきりとあしあとを残した。
 その背後、太い木に隠れるように、少年の影がある。

 

(……シア)

 

 キールはゴクリと喉を鳴らした。
 王都で一人うろついていたのを見つけて、そのまま後をつけてきた。ひとけのいない場所で捕まえようとしていたらご丁寧に自分から森に入ってくれた。話がうますぎるような気もしたが、その考えはちらりと頭をかすめたきり再びのぼることはなかった。
 今のキールはぎりぎりの緊張状態にある。今度こそシアを捕まえて例の写真を手に入れなければ、自分の命はないのだ。
 シアの背中が、ふいに止まって、足元を見た。そのまましゃがみこむ。地面に何かを見つけたのだろうか。

 

(今だ)

 

 汗で手のひらがヌメる。グっと拳を握りしめ、キールは木の影から踊り出た。一息に精神を高め、かざした手のひらから炎を撃ち放つ。
 空色の目を見開いて、シアが振り返る。

 

「氷刃(ヒョウハ)!」

 

 突然呪文が割り込んだ。女の声だ。ほぼ同時に放たれた氷の刃が、炎を突き破った。キールは目を見張る。

 

「おまえは昨夜の……、いや」

 

 シアを護るように、彼女はキールの前に立つ。出てくるタイミングが良すぎる。まさか、シアは囮? キールをひとけのいない場所へおびき出す作戦だったのか。
 立ち尽くしていると、彼女は鋭い視線を投げてきた。

 

「女の子にいきなりそれはないだろ。殺す気だったのか」
「おまえ……『リリス』? 昨夜は『アーク』で……、いや、あれは男だったはず」
「そんなのどっちでもいいじゃないか」
「くそっ」

 

 舌打ちしてキールは再び火弾(カダン)を放つ。彼女は腕の一振りでその魔法を消滅させた。厳しい目はそのままに、絶対的な事実として、宣告する。

 

「おまえはわたしに勝てないよ」
「黙れ!」

 

 一声吼(ほ)えて、キールは両手から次々に魔法を放つ。火弾、魔炎(マエン)、焦波(ショウハ)。下級から中級程度の魔法だ。しかしこれらも『氷刃』で消し去られてしまった。

 

「バカな……下級魔法の『氷刃』で、中級の『焦波』が消えるはず……」

 

 愕然と、後ずさった。女は顔をしかめる。

 

「不勉強な『リリス』だな。下級の魔法でも、使い手によって威力が違うんだよ」

 

 キールは彼女を睨みつけた。もはや、それしかできなかった。

 

「その娘を渡せ。オレの知り合いだ。部外者はひっこんでろ」
「あいにくもう部外者じゃないんだ。彼女はわたしたちの依頼人だからな」
「依頼人だと?」
「知らないのか?」

 

 彼女は笑う。薄紫の目が細められた。

 

「わたしたちを」

 

 

 

 

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