ネット小説 【銀の翼】 act2 キール(2)

act2 キール(1) ネット小説 【銀の翼】 act2 キール(3)

 

 その時背後に気配を感じて、キールは振り返った。が、すでに遅く、乱暴に肩をつかまれ片腕を背中にねじり上げられる。

 

「い、痛っ」
「やあ、昨夜ぶり」

 

 明るい声とともに、キールは容赦なく蹴り倒された。湿った地面に顔を擦り、うめき声が漏れる。

 

「相変わらずの熱血ぶりだねぇキール君。そんなにシアが好きなのかい?」
「お、おまえら……?」

 

 必死で状態を起こしたキールは、新しく現れた青年の姿を見て瞠目した。一目見て兄妹(きょうだい)と分かる、よく似た二人。
 足首までを覆う、黒と白の外套。銀の髪、薄紫の瞳。そして、強力な剣と魔法。キールはようやく、それらが暗示するものに気づく。 裏の世界の者なら、一度でもその名を耳にしたことがあるはずだ。

 

「まさか、おまえたちは……!」
「知っているなら話は早い」

 

 キールは胸ぐらを、乱暴に引っ掴まれた。青年はニコニコしている。表情と行動が合っていない。

 

「君はどこの組織の者だ?」
「い、言えない。言ったら、こ、殺される」
「例え言わなくても、シアから写真を奪わなきゃ殺されるよ。そしてオレたちがシアのそばにいる限り、それは不可能だ。可哀想だけどね」

 

 彼はキールを地面に突き放した。何度も地面を転がったせいで、全身泥だらけになっている。頭が混乱する。まさか、シアが『奴ら』と繋がっていたなんて。

 

「何でだ!」

 

 シアに向かって怒鳴りつけると、女の方が、彼女を庇うように前に出た。

 

「何で、おまえが『銀の翼』と繋がってるんだ!」
「銀の翼?」

 

 シアは、まるで今初めて聞いたかのように、首を傾げた。キールがさらに言い募ろうとした時、青年が薄く笑った。

 

「繋がりの理由なんて、答えようがないさ。たくさんの偶然が重なり合って、おまえもオレたちもここにいる。そういう事だろう、キール?」

 

 

 

 

 惨めに地面を這いつくばっているキールを、シアは見ていた。こちらを睨みつけて、怒鳴ってくるキール。ふつふつと、腹の底から怒りが押し出されてくる。気づけば口を開いていた。

 

「銀翼とか写真とか、そんなのどうでもいい。写真が欲しいなら、あげるよ。その代わり聞かせて。一体クレイが、何をしたの。クレイはいつもキールを助けてたじゃない」

 

 エステルが眉をひそめて、こちらを見る。

 

「シア、ここはわたしたちに任せて、下がってろって」
「クレイが何をしたの?!」

 

 シアは激昂した。キールは動揺したように、目線を逃がす。

 

「クレイはキールを弟みたいな奴だって、いつも笑って言ってた。クレイはあんたを大事に思って、いつも気にかけてたんだ。それはキールも知ってたでしょ。いつもクレイを頼ってたでしょ。なのにどうして?」

 

 優秀な『アーク』だったから、いつも危険な仕事を任された。だからクレイが仕事に出る朝、シアはいつも心配だった。行ってくるよ、と頭をなでてくれる大好きな手、それが今日失われてしまうのではないかと。

 

(……君がクレイの養い子だね)
(残念だけど、彼は死んだよ)

 

 突然訪ねてきた見知らぬ少年が、そう言った。え? と聞き返した。それしかできなかった。

 

(殺したのは、キールだ。彼を知っているね)

 

 気がつくと、知りません、と答えていた。本当に知らなかった。『クレイを殺したキール』、という人間をシアは知らなかった。シアが知っているのは、気が小さくて、いつもクレイの後ろにいた弟分のキールだった。
 少年はそうか、と答えてそのまま家を出ていった。力が抜けて、シアは床にへたりこんだ。

 

 その直後、キールが慌てるようにシアを訪ねてきたのだ。

 

 

 

 

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