ネット小説 【銀の翼】 act2 キール(3)

act2 キール(2) ネット小説 【銀の翼】 act3 クレイ(1)

 

「どうして……」

 

 泣き崩れるシアを、エステルは庇うように支えた。震えている薄い肩が、切ない。

 

「さて。キール君」

 

 地面に座りこんでいるキールを、アレスは見下ろす。口端に笑みを刻んでいるが、薄紫の両目はどこまでも冷たい。

 

「すべて話してもらおうか」
「だ、だめだ、話したらオレは」
「安心しなサイ。キミの身柄は治安官に引き渡す。王都の治安官長は優秀だから、『裏の暗殺者』からは守ってくれるよ。まあでも、一生獄中暮らしだろうね」
「そんな」

 

 キールの表情が歪んだ。

 

「あれはオレのせいじゃない。クレイが悪いんだ。あいつがいきなり、あんなこと言い出すから」
「クレイのせいにするの」

 

 シアは声を振り絞った。

 

「自分がしたことを、どうしてクレイのせいにするの!」
「だって、クレイがオレを見捨てるから!」

 

 地面に爪を立てて、叫ぶように言った。エステルは眉を寄せる。

 

「見捨てる?」
「そうだ、ずっと毎日、一緒に仕事してたオレを見捨てたんだ。いつも失敗ばかりで、組織の人間にもバカにされてて、でも、クレイがいてくれたからオレは何とかやってこれた。それなのに、クレイは突然組織を辞めるって言った。シアのために、足を洗って、マトモな職に就くって。オレを、置いて!」

 

 両腕の間に顔を落とし、キールは叫んだ。バカな、とエステルはつぶやく。信じられなかった。怒りで声が震えた。

 

「バカな――そんな、バカげた理由でおまえは」
「殺すつもりなんてなかった!」

 

 キールが顔を上げた。

 

「ついカッとなって、下級の魔法をぶつけただけだ。まさか、死ぬなんて思わなかった。だってクレイは、能力者だったんだ」
「人間は弱いんだよ。特に、心を許した人間の前ではね」

 

 感情の覗えない顔で、アレスが言った。

 

「例えクレイが上級の能力者だったとしても、防御をしていなければ非能力者と同じだ。信じる者の前で、そんな構えをする人間はいないだろう? 『まさか死ぬなんて思わなかった』と君は言ったけど、それを言いたかったのは他ならぬクレイだったと思うよ。『まさかキールに殺されるなんて』」

 

 キールは言葉をなくして、アレスを見上げた。

 

「信じていたんだよ、キール。君のことを。だから無防備だった。君はクレイの信じる者だったからこそ、彼を殺せた。優秀な能力者は、そう簡単にやられたりしない。でも完全に無防備だったのなら話は別だ。でも君は彼の気持ちを理解せず、短慮に走った。クレイじゃない、君の罪だ」
「オレを……見捨てたんじゃ、ない?」

 

 震える問いに、アレスはうなずいた。

 

「信じているってことは、大事に思っているってことだ。捨てる事ができるようなものじゃない」

 

 キールは言葉を発することができず、ただアレスを見上げていた。そうしてゆっくりと、頭を下げた。湿った土の上で汚れた体を折り曲げて、キールは耐えきれず、泣いた。

 

 

 

 

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