ネット小説 【銀の翼】 act3 クレイ(1)

act2 キール(3) ネット小説 【銀の翼】 act3 クレイ(2)

 

 その日の夜、アレスはさびれた裏路地にいた。待ち合わせの場所に、細身の少年が現れたのは、そのすぐ後だ。

 

「やあ、アレス。久し振りだね。今日はエステルと一緒じゃないの?」

 

 細身の少年が人懐っこく笑んだ。アレスは片手を上げて応える。

 

「エステルには依頼人を任せてあるんだ」
「ふふ。こういう場にはいつも、連れてこないね」
「レイハルトも一人だろ。部下に怒られないか?」
「話の内容が内容だからね。僕もその辺のマナーは心得てるつもりだよ」

 

 マナーねぇ、とアレスはぼやいた。レイハルトは無邪気に笑う。

 

「いつぶりかなぁ。去年の事件の時じゃなかったかな。ほら、僕の組織の3人が、君たちに捕まえられた時。あの時は参ったよ」

 

 まったく「参った」と思っていないような笑顔で彼は言う。アレスは苦笑した。

 

「こっちも仕事なんでね、その辺は許してくれ。代わりこの前格安でパドマの組織の隠れ家、探したろ」
「ああ、そうだったね。じゃあ会うのはあの時以来か。あの時は助かったよ。ありがとう」

 

 無邪気笑うこの少年は、一見屈託のない都民に見えるが、実態は大きく異なる。彼――レイハルトは1年前、組織の元リーダーを知略と実力で叩きのめし、その座を奪った上級の能力者だ。若干16歳の時である。敵に回したくない人物であることに、間違いない。

 

「クレイのことだったよね」

 

 レイハルトは目を和ませて本題に入る。

 

「彼は残念だったよ。よく働いてくれていたのに」
「クレイの養い子のことは知ってるか?」
「もちろん。クレイが死んだことを彼女に報告しに行ったのは、僕なんだよ。キールが犯人だということもね。可哀想に、ひどくショックを受けているようだったな。それでキールは? 治安官庁の牢獄行きかな」
「ああ。レイの名前もキールが治安官庁で吐いた。おまえ、クレイが足を洗いたがっているっていう話は聞いてたか?」

 

 アレスの問いに、レイハルトは薄く笑った。

 

「うん、聞いてたよ。クレイが死ぬちょうど1日前にね。僕は反対した。でもクレイがどうしてもって言うから、じゃあ仲のいいキールに1回相談してみて、それから改めて考えてみてって言ったんだ」
「――キールに?」

 

 アレスが鋭い視線を投げた。

 

「うん。でもまさかあんな事になるなんてね。相談してなんて言うんじゃなかったな」
「ワザとだな」
「怖いなぁ。そんな顔しないでよアレス」

 

 レイハルトが笑って言う。アレスは舌打ちした。
 クレイは危険な仕事についていたという。ということは、組織中枢の情報に触れる機会もあったに違いない。レイハルトの使いそうな、賢い口封じのやり方だ。
 しかし今は、それにこだわっている時じゃない。考えるべきは、依頼人の今後だ。

 

「取引きがしたい。プレゼントを渡すから、一つ言うことを聞いてくれないか」
「何をくれるの?」

 

 アレスは例の写真を取り出した。受け取ったレイハルトは無言でそれを眺め、「ふーん」とつぶやいた。

 

「クレイがしてた仕事の関係だね。探してたんだよ。どうもりがとう、アレス」
「暗号を読んだら、悪いけど返してくれ。クレイの形見なんだ。それがないと、悲しがる」
「うんいいよ。念のためこの暗号消しておくね。あの子は元気にしてる?」
「取引きってのはそのことだ。シアを自由にしてやってほしい。クレイが一切のことを教えなかったから、レイの組織のことはまるで知らない。あの子はまだ若いからまっとうな生き方をさせてやりたいんだ」
「ふーん……」

 

 レイハルトは数秒、沈黙した。

 

「シアちゃんだっけ。確かに何も分かってないみたいだったなぁ。家を訪ねた時も、僕のこと知らないみたいだったし。まあクレイの可愛がってた子ってこともあるし、いいよ、アレスの好きにしなよ。組織の者には手を出させないから」
「助かる」
「そうだアレス。ちょっと聞いてもいいかな」

 

 レイハルトは無邪気な仕草で首をかしげる。

 

「人を信じた人間と、信じることができなかった人間と、一体どっちが強かったと思う?」
「……そうだな」

 

 アレスは少しだけ笑った。

 

「信じることができなかった人間の方が、強いさ。でも一つだけ確かなのは、そいつは同じくらい不幸せな人間だって事だ」

 

 なるほどね、とレイハルトは微笑んだ。

 

「じゃあ僕はせめて、クレイの養い子の幸せを願うよ。この寒空の下で凍えることのないよう。飢えること、渇くこと、悲しいこと、辛いこと。そのすべてが彼女の身に降らないように」
「レイ。おまえも、不幸せな男だよ」

 

 レイハルトは笑う。

 

「知ってるよ」

 

 アレスは無言で背を向けた。凍えた空から、雪が降り始めていた。

 

 

 

 

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