ネット小説 【雪細工】 第1章(2)

第1章【1】 ネット小説【雪細工】 第1章【3】

 

 翌朝、やはり最悪の夢で目が覚めた。雪が降っていたら仕事を中止にしようと思っていたが、まぶしい程の晴天である。
 恐らく市場も賑わうことだろう。絶好のスリ日和だ。仕事へ行かざるをえない。
 カトリナは今、人通りのない細道にいた。
 いくつか割り出した逃走ルートの中で、一番使われやすいのがここである。背の高い倉庫に囲まれているため昼間でも薄暗く、ひさしのおかげで雪が積もらないため、足跡も残らない。
 人が二人並べば窮屈になる細さだ。倉庫の二階に、ベランダがある。ちょうど死角になるため、よじのぼって身を潜めていた。
 2時間ほどそうしていると、やがて複数の足跡が聞こえてきた。

 

(……大当たり)

 

 そっとのぞくと、4人の少年が、それぞれ大きな布袋を持って走ってくる。まだ10~12歳くらいの子どもだ。
 その中で一番年齢が高く、しんがりを走っている少年をチェックする。恐らく彼がアタマだ。
 間合いを計算する。少年がベランダの真下に差しかかる。――この狭さなら、ナイフで充分。
 音もなくベランダから飛び降りる。体勢を低くして着地すると、少年の背中が目の前にあった。地面を蹴り、腕を少年の首に回す。この間、2秒かかっていない。
 ガチ、と軽く締め上げた。

 

「う"えっ?!」
「しー。静かに」

 

 蛙みたいな声を上げる少年の唇に、ナイフをちょんと当てる。彼の体か硬直した。

 

「他のみんなも静かにね。できれば荷物を置いて、両手を挙げてほしいんだけど」
「あ、兄貴っ!」
「てめえ兄貴を離しやがれ!」

 

 案の定、少年達は色めき立った。
 相手は一人、しかも女。徹底抗戦の構えに出るのは至極当然だ。
 カトリナは軽く息をつく。このまま4人をやっつけるのは簡単だが、捕まえるのは主犯だけでいいと言われている。残りの少年が向かってきたら、無駄なケンカをしなければならない。

 

「おまえら逃げろ!」

 

 腕の中で、頭の少年が怒鳴りつけた。喉もとのナイフも恐れぬ気迫だ。

 

「け、けど兄貴……!」
「いいから逃げろ! オレはなんとかなるっ。食料持ってさっさと行けっ」

 

 少年達は顔を見合わせて戸惑っていたが、彼の覚悟を感じ取ったのか、布袋を持ったまま逃げて行った。
 カトリナは思わず感心する。

 

「自分を犠牲に仲間を助けるなんてキミ、男だね」
「うるせえっ! 畜生、離しやがれっ」
「往生際の悪さは、まだまだ子どもだね」

 

 腕の中で暴れているようだが、がっちりと関節を抑えているので、ムダだ。このまま気絶させて、上司に引き渡したら仕事はおしまい。あとの事は彼がやってくれる。

 

「縛るから大人しくしてね」
「この馬鹿力! ブス! 怪力女っ」
「ずいぶんと違いのわかる男だねー、キミ。名前は?」

 

 手早くロープで後ろ手に縛る。少年はこっちの話など聞いていないようで、さっきからわめきっぱなしだ。まあ、当然だろう。
 カトリナは右の拳を固める。クスリは後遺症が残りそうで苦手だから、気絶させるにはいつも腹部へ一撃だ。
 と、その時である。トン、と首筋に、軽い衝撃があった。直後、カトリナの意識は途切れていた。
 糸が切れたように崩れる体を、受けとめる腕があった。少年が、歓喜の声を上げる。

 

「ディーン! 来てくれたのか!」
「ったく。手間かけさせやがって」

 

 青年は息をつく。黒い髪に、意思の強い紺色の双眸。

 

「ピート。ガキどもを引き連れる時には充分に注意しろといつも言っているだろう」
「悪かったよ。あいつらがディーンに知らせてくれたのか?」
「ああ。オレが休日でよかったな」
「オレ、充分気をつけたんだけどさ。まさか、上から狙われるとは思ってなくて。この女、あそこから飛び降りてきたんだぜ? サルだよサル、怪力サル!」
「おまえな……。あんまり品のない言葉を使うな。にしてもそうか、あそこから飛び降りたのか。女にしては度胸があるな。……ん?」

 

 少女の顔に目を止めて、ディーンが眉をひそめた。ピートは構わず喋り続ける。

 

「声からしてガキっぽいなと思ったけど、ほんとガキじゃん! ディーンより年下くらい?」
「注意力散漫なのは、確かだな」

 

 ディーンは苦笑する。

 

「馬車に轢かれそうになったり、治安官まがいのことをしたり……。落ち着きのない女だ」

 

 

 

 

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