ネット小説 【雪細工】 終章

第3章【3】 ネット小説【雪細工】 

 

 その日の朝、突然カトリナがたずねてきた。
 エメルトは朝食の真っ最中で、パンをかじったまま扉を開けたものだから、彼女が持っている大きなキャリーバックを見た時、思わずパンを落としそうになった。

 

「今までありがとう、メル。メルが仕事を紹介してくれたおかげで、今まで生きてこれた。本当に感謝してるよ」

 

 仕事を辞める、という。
 あの家は雇い主が用意してくれたものだから、引き払うのだと。

 

「いろいろあって。だからいろいろ考えたの。そうしたらもう、一からスタートするしかないって思ったんだ」
「……。そう」

 

 いろいろって、何だよと聞きたかった。
 でもそうせずに、エメルトは軽く肩をすくめて、笑った。

 

「いい顔になったね、カトリナ。それでこそ美人さんだ」
「でしょ?」

 

 カトリナの後ろに、長身が見えた。……一度、見た顔だ。

 

「また、会えるかな」
「それはもちろん。野郎抜きでなら、いつでも歓迎だよ」
「じゃあ、密会ね」

 

 くすくす笑う。幸せそうに。
 こんな笑顔をされたら、こっちも笑って見送るしかない。

 

 

 

 

 ディーンは今、要人警護の仕事をしているという。
 警護ギルドに雇われている身の上だが、もう少し頑張れば、自分の組織が持てるようになるそうだ。

 

「そこに裏街のガキどもを雇おうと思ってる。荒事に向かない奴らは内勤させればいいしな」
「わたし警護の仕事できるから、内勤じゃなくていいよ。腕は一応、確かだし」
「馬鹿かおまえは……。おまえみたいな鉄砲玉に任せられるわけないだろ。安眠妨害だ」

 

 ディーンは呆れるが、カトリナは釈然としない。一応、4年間私設治安組織にいたのだ。荒事づくしの4年間だった。

 

「まあその件は置いておくにしても、組織ができるまでは、わたし一人で生活をなんとかするから」
「またそれか。オレのとこに来ればいいだろ。部屋余ってるし、おまえ一人の生活費くらいなんとかなる」
「これだけはダメ」

 

 全て一からスタートするのだ。
 家も、仕事も、――自分も。

 

「頑固だな。女にしとくのがもったいない」
「女のままでも、わたしは強いよ」

 

 ディーンがにやっと笑った。

 

「――上等」

 

 そのままあごを持ち上げられて、口づけた。

 

 

 

 雪ばかり降る灰色の街、けれど足元にいくつも転がる、幸せのカケラ。簡単に壊れてしまわないように、夢を紡いで、自分なりの形を作っていこう。
 白く染まるこの街で、けして溶けない雪細工が、優しく、春色に、色づくように。

 

 

 

 

 

 

第3章【3】 ネット小説【雪細工】 

 

 

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